第6回 卒業論文レジュメ(2002/10/7)
「住宅改修に対する取り組み」 国際学部国際社会学科4年 佐藤美佐子
夏休みにはいろいろ資料を集め、調査にも行き、卒論が書ける態勢を整えるぞ! などと思っていたが、実際には、2か月もあったのに思っていたことの半分もできなかった。今さら後悔しても遅いが、反省している。
そんなわけだが、とりあえず今回は、夏休みに調べたことをまとめてみた。
<東京都の取り組み>
インターネットで調べた中では、東京都の取り組みについての情報が多かった(各区市町村によって内容には差はあるが)。東京都としての取り組みに関しては、都庁に資料があるということだったので、都庁の「都民情報ルーム」に行って読んできた。
「高齢者いきいき事業」(住宅のバリアフリー化) 2000年4月から
=住宅改修費用の上乗せ制度
内容
(編集・発行 東京都住宅バリアフリー推進協議会 監修 東京都住宅局/福祉局 「2001年度 東京都高齢者いきいき事業(住宅のバリアフリー化) 東京都重度身体障害者(児)住宅設備改善費給付事業 区市町村別事業概要一覧」2001.10 http://www.fukushi.metro.tokyo.jp/soudan/jyu_list.pdfより)
目的:高齢者のいる世帯に対し、次の効果を得るために、その者の居住する住宅の改修を給付し、もっと在宅での生活の質の確保を図ることを目的とします。
(1)転倒予防
(2)動作の容易性の確保(痛みの軽減)
(3)行動範囲の拡大の確保
(4)介護の軽減
(5)その他市区町村が必要と認める内容
実施主体:区市町村
改修の種類:
(1)住宅改修予防給付
@手すりの取付け
A床段差の解消
B滑り防止、移動の円滑化等のための床材の変更
C引き戸等への扉の取替え
D洋式便所等への便器の取替え
Eその他これらの工事に付加して必要な工事
(2)住宅設備改修給付
@浴槽の取替え及びこれに付帯して必要な給湯設備等の工事
A流し、洗面台の取替え及びこれに付帯して必要な給湯設備等の工事
B便器の洋式化及びこれに付帯して必要な工事
補助限度額(補助率 東京都1/2 区市町村1/2):
(1)住宅改修予防給付 1世帯あたり200,000円
(2)住宅設備改修給付
@浴槽の取替え等 1件あたり 379,000円
A流し、洗面台の取替え等 1件あたり 156,000円
B便器の洋式化等 1件あたり 106,000円
対象者:この事業の対象者は、65歳以上の高齢者で、住宅改修が必要と認められるもの。ただし、原則として、介護保険における要介護認定を要し、住宅改修予防給付については、要介護認定判定結果が自立(虚弱)であること。
給付方法:給付は原則として現物による。
給付内容の決定:市区町村で決定する。(給付内容は、住宅改修アドバイザー等の住宅改修に関する専門知識を有する者の意見を参考とし、適切、効率的な改修計画を区市町村が決定する。) (※下線は筆者)
費用の負担:給付を受けたものは、その費用の10%を負担する。
→東京都では1988年から住宅改造費の助成を行ってきたということで、住宅改修の効果について実績があり、それを踏まえて今後も助成を続けていくようだ。在宅での生活の質の確保を明確な目的とし、また、補助限度額を(住宅設備改修給付)改修の種類ごとに設定したり、住宅改修アドバイザーを設けたりと、積極的に取り組んでいこうという姿勢がみえる。
住宅改修アドバイザー:
(以下、東京都福祉局高齢者部住宅サービス課 「住宅改修アドバイザーマニュアル」2001.3より)
区市町村が実施する住宅改修にあたり、利用者の住宅の状況や身体状況、日常生活上の動線等を配慮した適切な改修がおこなわれるよう、改修前に相談や助言等をおこなうなど利用者の立場にたって住宅改修を支援する者。
アドバイザーの業務内容:
・住宅の改修に際し、対象者の居宅を訪問し、家屋の構造、高齢者の身体状況及び保険福祉サービスの活用状況を踏まえて相談に応じ、助言を行います。
・住宅改修が必要な理由書を作成します。
・改修内容について、施工業者への指導及び調整を行い、必要な場合は改修図面の作成を行います。
・見積書及び請求書の精査をします。
・竣工検査及び改修後の利用者への改修箇所の説明、利用の指導を行います。
・区市町村に対し、必要な情報提供や報告書を提出します。
・その他、区市町村との委託契約による必要な業務を行います。
アドバイザーの職種等:
アドバイザーは次の職種等を有し、住宅のバリアフリー化に関する専門的な知識と経験を有する者です。
・福祉関係職種 ケースワーカー、ソーシャルワーカー
・保健・医療関係職種 理学療法士、作業療法士、保健婦等
・建築関係職種 建築士
・福祉住環境コーディネーター2級以上の資格を有する者
・その他(上記以外の職種で、住宅のバリアフリー化に関する知識を有する者)
アドバイザーによる効果:
・専門家によるアドバイスにより、高齢者の身体状況や住宅構造にあった適切な改修が行われることにより、改修効果が期待されます。
・業者任せによる、過剰、高額な改修を防ぎ、住宅改修の質を確保します。
・介護支援専門員が「住宅改修が必要な理由書」を作成することが困難な場合は、アドバイザーを活用することにより業務の停滞を防ぎます。
→調べた時点では、11区10市が登録を行っているということだった。3日間の研修後に登録をするということである。
住宅改修の専門家が住宅改修に取り組むというのは、あまり知識のないケアマネが携わるよりも理想的なことだと思う。しかし、業務内容として挙げられていることに、個々のアドバイザーがきちんと対応できるのかという疑問がわいた。研修を受けるとはいえ、3日間で十分なのかということも疑問である。ケースワーカーがアドバイザーに登録されたからといって、いきなり図面が書けるようになるというものではないだろうし、建築士がいきなり福祉のプロフェッショナルになれるというわけではないだろう。「専門家」というと住宅改修に関わるすべてのことに精通しているというようなイメージを持ってしまうし、「業務内容」をただ読んだだけだとそのような印象を持ってしまう。だからこのような疑問を感じてしまったのではあるが、実際のアドバイザーはどうなのだろうか。そういった意味で、アドバイザーの業務実態について詳しく知りたいと思った。また、アドバイザーが実際にどれだけ活用され、どれだけの効果をあげているのか等についても、東京都に聞くなどして参考にできたらいいと思う。(私は、決して一人ですべてのことができなければいけないと考えているのではない。利用者に合った適切な住宅改修を行うには、やはり連携が必要であると思う。アドバイザーも専門分野に特化しているならば、結局はアドバイザー同士、または他の職種と連携をとりながら行うということになるだろう。その連携がうまくとれたうえで、住宅改修も、アドバイザー制度もうまくいくのではないかと思っている。)
他の自治体でもこのような専門家が住宅改修に取り組んだほうがよいのではないかと考えていたが、東京のように人材の豊富なところばかりではないと思うので、それもまた難しいことではあるかもしれないと感じた。
<ケアマネジャーの取り組み>
介護保険の住宅改修を行う際には、理由書の作成等でケアマネジャーが関わることが多い。そのケアマネジャーが、住宅改修にどのように取り組んでいるのか、また、どんな意見を持っているのか等を知りたいと思った。直接自分で調査をする前に、「ケアマネジャーの住宅改修の取り組みに関する調査報告書」という資料があったので、まずそれを読んでみた。
調査概要(http://www.fukushi.metro.tokyo.jp/press_reles/2002/pr0124a.htmより)
東京いきいきらいふ推進センターで実施した「ケアマネジャーの住宅改修研修会」に参加したケアマネジャーを対象に、介護保険制度下における住宅改修の取り組み状況についての調査を実施。実施経験、改修相談の経過と他機関との連携状況、効果測定、住宅改修を実施するにあたっての課題についての事項を問い、集計・分析を行った。回収率72.8%。
報告内容
(財団法人 東京都地域福祉財団 東京いきいきらいふ推進センター「ケアマネジャーの住宅改修の取り組みに関する調査報告書」 2002.1 より)
・ケアマネジャー自身は住宅改修の必要性を十分承知しており、実際に利用者にも住宅改修を勧めている。また、その効果についても効果があるとの認識が強い。
・ケアマネジャーが住宅改修の必要性を認識しているにもかかわらず、住宅改修について相談できる機関や専門職との関係が希薄である。特に、アセスメントを行う場合、利用者と関係の深い専門職(施工業者やリハビリ専門職)との連携の場合には、直接の利害関係が生じることもある。
・ケアマネジャー自身についても住宅改修の知識を身につける場が少ない。
・連携先、特に施工業者が介護保険制度を理解していない場合は、制度の説明に困難をきたす場合が多い。
・このように住宅改修は利用者や家族にその必要性を説明したり、介護保険制度に詳しくない施工業者と調整したりと、業務としては非常に煩雑である。それにも関わらず理由書作成の単価が極めて低い。
このほかに、この資料を自分で読んでみて重要だと感じたケアマネの意見と、それを読んで思ったことを以下に挙げる。(抜き出したものと、まとめたものとがある)
●ケアマネジャーが住宅改修に関わることについて
・理由書の作成はそもそもケアマネジャーの仕事ではないのではないか。
・住宅改修はケアマネジャーがやることではない。行政で建築専門職を雇って実施すればよい。
・ケアマネジャーに課されている業務はあまりに多くやりきれない。
→ほかの介護サービスと住宅改修とでは、同じ在宅サービスに属してはいるが、専門的知識の必要性を考えたら、まったく違うものである。単に福祉サービスの利用ということだけで考えてはいられない。医療・福祉・建築のどれかの知識があればいいというのではなく、総合的な知識が必要であり(一人で業務を行う場合に限らず)、忙しいケアマネがこなすには度を過ぎたものなのかもしれない。ただ、医療・福祉・建築の知識を兼ね備えた人材も今のところ少なく(活用度も低い)、そうなるとやはり連携が必要になってくると思う。この連携をうまくコーディネートする仲介者も必要ではないか。そういうところで行政が関わってもよいのではないか。
●改修工事の費用について
・施工業者により単価が違う。――情報が少ない。
・工事費の目安がわからない。
→建築に関する知識のない者には、こういったことは判断できなくて当然である。しかし、だからといて業者のいうままにやっていたら、もしかしたら必要以上に高額な費用を請求されてしまうかもしれない。こうなってくると、やはりケアマネ任せでは難しいのではないか。せめて、統一基準や相場をはっきりと設定し、分かるように(利用者にも)資料としてまとめておく等の対応が必要なのではないか。また、行政の担当課でも、建築の知識を持たない職員が申請書の内容を検討することが多いのではないかと思うが、そういうことも踏まえて、業者の出した見積もりをチェックすることができる機関や専門家を設けることも検討するべきではないか。
●業者の対応について
・施工業者が介護保険関係の手続き(内訳書・写真・図面等)に関しての知識が乏しく、説明に手間取る。
→業者は、ただ工事をすればいいというのではなく、介護保険やその他の制度についてきちんと理解し、こなせるようにする努力が必要である。それは、客である利用者のためでもあり、仕事として改修工事を請け負っていく業者自身にとっても必要なことである。また、業者に対して研修会を開く、それをきちんと受けさせる、受けた場合は認定証のようなものを発行する、というようなことも必要であり、行政が行っていくべきではないか。ほかの介護サービスは都道府県等の指定を受けた業者が事業を行っているが、住宅改修についても、安心して工事を任せられる業者をはっきりさせる必要があるのではないか。
●利用者の費用負担について
・住宅改修は費用がかかる。
・費用が高額になる場合が多く、行えない場合がある。
→改修がどこまで必要かは利用者によって異なるが、本当に必要な人が行えないのでは、いくら制度があったところでその人に対しては何の意味もないものになってしまう。大掛かりな工事には相当の費用がかかることは利用者も分かっているから、支給限度額に抑えようとすると十分な改修は行えないこともある。自治体ごとに上乗せ制度(補助)があるにしても、支払える余裕がなければ利用できない。そういったことを考慮して、支給額・補助額を考え直すことも必要ではないか。
<宇都宮市の取り組み>
宇都宮市では実際どれだけの人が住宅改修をし、改修費の支給を受けているのか等について、市役所の介護保険課で話を聞いてきた。
・住宅改修の利用状況
平成13年度の実績は624件(人)。住宅改修費の支給申請は月に50〜60件ある。要介護認定を受けている在宅者の約9.5%の人が利用したことになる。
・住宅改修費の支払い方法について
改修費の支払いは、介護保険では償還払いとなっているが、それに加えて「受領委任払い」も行っている(平成13年6月から)。申請が50〜60件あるうち、20〜30件は受領委任払いだということ。
償還払い:かかった費用を利用者がいったん業者に支払い、あとから9割分が支給される。
受領委任払い:自己負担分の1割の金額を利用者が業者に支払い、支給費は業者に支払われる。
・上乗せ制度について
「高齢者住宅改造費の支給」ということで助成制度がある。(高齢障害福祉課が行っている)
(以下、宇都宮市 「介護保険 住宅改修費支給のてびき」より)
対象:宇都宮市に住所を有する介護保険の認定を受けた65歳以上の高齢者がいる世帯で、生計中心者の前年所得税額が非課税または世帯の前年所得税額の合計が32,400円以下の場合。
対象となる工事:居室、浴室、便所、台所、玄関等の改良工事及び住居と外部との連絡通路の改良工事。(増築や老朽化による改良工事は認められません)
助成内容:補助対象となる住宅の改良工事に要した経費の、4分の3の額で90万円を限度とします。
→住宅改修は、他の在宅サービスに比べて利用量が少ないこともあり、それほど重点的には進められていないようだった。現実問題として介護が必要だという人のほうを何とかしなければ・・・ということになるのは仕方がないことなのかもしれない。ただ、業者の問題点や連携が大切だということは話していたので、対応が難しいということではあるが、そういうところをもう少し積極的に取り組んでいってもいいのではないかと思った。